約 1,076,922 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/327.html
私は夢を見ていた。 (むーーーーー?) バヂッ、と頭の一部分がショートした音を聞きながら。 何か大切なものを失い、その部分に別の物が入ってくるような、何か奇妙な感覚が起こる しかし、夢の中の視覚のない私には認識する術が無い、目の前には広がる闇だけが見えていた。 だが行動はしているのが分かる。それは自分の目でも耳でも舌でもなく、もっと別の何かによってされてるような。本当に奇妙な感覚。 そして、声が聞こえた。それは男達の叫び声。 野太く粗暴な音は、神に祈り、運命の理不尽さを呪い、親兄弟に助けを求める。 断末魔のように、慟哭のように。 パチッ ようやく、視界が開いた。 私はまず目を疑ったが、気を取り直すともう一度それを直視してみる。 ―――視界には男達の生首がずらりと並んでいた。 全てが同じ顔。恐怖と絶望に歪んだままで絶命している。 何故か私は恐怖を感じなかった、ただ「殺されて当たり前」と凍りつくような確信が頭に浮かんでくる その死体達の中央。 剣でも槍でも無い、見た事の無い武器で武装している首の無い男達で積まれた山の上――― そこに、居た. 「―――」 死体の体を啄ば、ゼラチン質たっぷりの眼球を刳り貫いて飲み込みながら『――――――』は象徴として降臨していた。 食事を終えると前を見た。 視線を遠くに向けて。 何を考えているのか?―――私には分かっている。 「――――!」 突然叫ぶと一気に飛び上がった。 何をする気なんだろうか?―――私には分かっている 視線の先には逃走者。 多分、『――――――』に殺されるのを免れた最後の生き残りなんだろう 『――――――』の声を聞いた逃走者の顔が恐怖に歪むのがはっきりと分かった。 その逃走者の持っていた鉄の筒が火を吹く。魔法の杖?メイジなのかしら? バゴォンッ! 轟音と共に『――――――』が爆発に包まれ、辺りは黒煙で満たされる。 だけど、逃走者の反撃は無意味だった。 ドギャァァァァン!! 黒煙の中から冷たい氷と共に現れた『――――――』が繰り出した攻撃は、哀れな最後の生き残りの体を挽肉に変化させる。 眼球、内臓、体の中にある物全てが飛び出した惨たらしい血の惨劇。なのに何故なんだろう? 人を殺すと言う禁忌への嫌悪は、私の中に沸いて来なかった。何かをやり遂げたと言う感慨さえも浮いてこない。 ただ、そこにあるのは冷たい意思と漆黒の殺意だけ。 パチパチパチパチパチパチパチパチ 何処かから拍手の音が聞こえた。 優れた演劇を賞賛するかのような場違いな音。 「フフフ・・・・・・素晴らしいぞ『――――――』」 出てきたのは一人の男だ。 艶めくブロンドの髪と、人間の限界を突き詰めたような均整の取れた肉体。 顔は何かの影が付いているかのように黒く覆われており判然しないが、それでも美しいだろうと確信。 振り向いた男の首に縫ったような痕があるのが分かった、その部分だけが唯一その男の魅力を損なっていると感じる。 (・・・・・・・・・・・・) しかし・・・何故かしら?あの男を見ると涌き出てくるこの感情は? 安心、恐怖、歓喜。相反する感情が同時に出てくる。 あの男のためなら殺人さえも喜んで出来るかもしれない、何て狂った思考まで浮かぶ。 そこで私は気付いた。 (!?) あの男に見られている! これは夢―――夢のはず、私の頭が作り出した空想の世界のはず。なのに 男は手で顔を隠しながら私に指を突き付ける。 「貴様!見ているな!?」 その言葉に私が何かをするよりも早く―――――目の前に突然一本のナイフが現れた。 超スピードで投げられたのか、催眠術で誤魔化されたのか分からないけど 体の感覚が無い私では避ける事が出来ず――― ゴシカァン! 頭の中でとてつもない破裂音が響き。 『――――――』の名前を思い出した瞬間。 私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの意識は覚醒した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2034.html
波紋ワインを飲んだアルビオン王軍を集めたホールにてジョセフが立案した手法は、ニューカッスル城の爆破解体及びそれに伴う岬の崩落であった。 NYで不動産王となったジョセフにとって、爆破解体は至極有り触れた手段であり、専門ではないにせよ城一つを解体するくらいはお手の物だ。 しかし爆破解体と言う技術が開発されたのは地球でも二十世紀に入ってから。 魔法を除いた技術レベルは中世のものでしかないハルケギニアの住人が理解しきれないのは当然のことだった。 しかしその程度の反応を恐れるジョセフではない。 不敵な笑みを一切崩すことのないまま、ニューカッスル付近の大地図とハルケギニアの大地図を前に滔々と語り続ける。杖を粗末にするとルイズが怒るのは目に見えているので、折り曲げた指の背でコンコンと地図を叩いて示す。 「しかし考えてみるといい、このニューカッスル城の立てこもるメイジの数は三百。この城の地理条件と敵の殆どがメイジじゃあないとして多勢に無勢は否めやせんッ。どれだけガンバったとしても向こうの被害は二千か三千、それでも大したモンじゃがなッ。 そこで逆に考える。敵に秘密港つきの風光明媚な城をわざわざくれてやるところを、城ごとブッ潰して向こうの度肝を抜いてやりゃあいいとな!」 ジョセフはニヤリと笑い、更に具体的な戦術に続ける。 「こん時ゃトーゼン巻き込む敵の数が多いに越したこたァ言うまでもない。じゃがあからさまに門を開け放してちゃー向こうも警戒しちまうわなァ。そこで向こうが攻めてきたところをナンボか抵抗して、キリのいいトコロで門を破らせる。 で、本丸に到着するまでに罠をがっつり仕掛けて足止めさせる。前の連中は罠に掛かるが、後ろの連中は城に入って戦功を上げたいからどんどん突入してくる。こーゆー時ゃ敵に勝利を確信させるのがコツ! 『相手が勝ち誇った時そいつの敗北は決定している』ッつーこッた! で、レコンキスタの連中が前のめりになったところで、ウェールズ殿下の演説を風の魔法で増幅させて、終わったところでタイミング合わせてドカーン」 握った手をニューカッスルの地図からハルケギニアの地図に移し、計画実行前後にニューカッスル岬が落下するであろう地点……ガリア王国の山脈を叩き、ふてぶてしく笑う。 「メイジは飛んで逃げられるが、どーせ城攻めに使うのは平民ばかりじゃろうから哀れ地面に大激突ーってワケじゃな。これなら魔法と大砲でブッちめる分と合わせて、少なくとも五千……臆病風に吹かれて逃げ出すのも随分と出てくる。 レコン・キスタに与えるダメージは決して少なくはないッ!」 手段もそうだが、ジョセフの発想のスケールの大きさもまたメイジ達を驚かせるものだった。それ故にジョセフの言葉を信じ切れないのは止むを得ないことである。 が、ジェームス一世とウェールズはジョセフの策を採ると決めている以上、粛々と従う姿勢を取るのは呼吸するより当然のこと。 さてニューカッスル城爆破解体に取り掛かるジョセフが最初にやらせたことは、錬金によるゴーレムの作成だった。三百のメイジはその殆どが最低でもライン、多くはトライアングル、中にはスクウェアも数名いる。 土系統が専門ではなくても錬金でゴーレムを作ることくらいは朝飯前である。 それに加え、ゴーレムを錬金する媒介にジョセフが指定したのは門から城に続く地面。 城を中心として堀を掘らせるようにゴーレムを錬金したのである。 土から起き上がったゴーレムはスコップ、もう半数はハンマーと杭を持っている。 「よしよし、んじゃ次にデッカイ穴を幾つか掘るとするかッ」 そう言うとジョセフはデルフリンガーを抜き、デルフリンガーにハーミットパープルを伝わせる形で発現させた。 「いやァこの剣はイロイロ出来るマジックアイテムでしてなァー」 「よく言うぜ相棒よォー」 ワルド戦にて魔術赤色の波紋疾走で燃やされた恨みたっぷりの声を、ジョセフは全力で聞き流した。 デルフリンガーを地面に突き刺し、茨を地下へと伸ばしていく。今回探知するのは地表から空中までの距離である。少々の時間が経ち、おおよその距離を把握した。 「ふむ、こんなモンか。えーと、大体こんなモンで」 ひょい、と地面の上に伸ばした茨は、空中に届くまでの長さ。それを参考にロープを切り、次にロープの片端をこの城にも数頭いたジャイアントモールやモール達に結わえ付ける。ギーシュのヴェルダンデも当然頭数に入っている。 そしてもう片端をゴーレム達がしっかり掴んで、モグラ達は下へ向かって穴を掘り進んでいく。こうしておけばもし掘り過ぎた場合でもゴーレムが引き上げられるという按配だ。 しばらくしてロープがピンと張られる。目的の深さまで掘り進んだところでゴーレムがロープを引っ張り、モグラ達を地面へ引き上げる。 続いて火のメイジが黒色火薬を固めて作った即席の爆弾を深い穴へ投げ入れ、底に落ちた爆弾が爆発する。すると辛うじて残っていた穴の底は爆発により吹き飛ばされ、空に向かって開いた穴からモグラ達に掘られて柔らかくなっていた土が一気に落下していく。 幾つも土を掘り進める作業が続く中、ハンマーと杭を持ったゴーレムを引き連れたジョセフは城の見取り図を手にハーミットパープルで念視を行う。 爆破解体で必須となるのは、「いかに建築物の重量を支えている箇所を効率的に破壊するか」という点。 ジョセフの目視でもおおよその爆破ポイントは目星がつけられるが、固定化の魔法がかかっているハルケギニアの建築を前にしては、念を入れなければならないのである。 だが幸運なことに、ニューカッスル城は城全体にはそれほど強固な固定化は掛けられていなかった。風化による劣化に耐えられる程度の固定化であり、建築技術により城塞に求められる強固さを得た、ハルケギニアには珍しいタイプの城だった。 ハーミットパープルが導き出した爆破ポイントに辿り着くと、チョークで書いた円の前にゴーレムを配置し、一斉に杭とハンマーで穴を穿たせていく。 城中を回りながら作り上げた穴に爆弾を詰め、なおかつメイジ達の攻撃魔法を放つことにより爆破ポイントを一斉に破壊し、城を解体する手筈である。 地球ならば遠隔操作による着火で済む話だが、ハルケギニアにそのような便利な技術は存在しない。まして中世レベルの黒色火薬で作られた爆弾で求められるだけの爆発力を得られるかも怪しい……ジョセフが良心の呵責に駆られないはずがない。 しかし三百のメイジ達は次の夜を迎えるつもりもない。この爆破解体を成功させるためには避けて通れない代償だということは重々理解している。 例え死ぬ経緯が違うとは言えども、メイジ達を死に追い遣るのはジョセフの計画によるものである。 (決して失敗などせんッ、失敗しちまやァそれこそ犬死にじゃからなッ!) 何度も繰り返した決意、それを再び心に刻みながら、次の作業場所に移る。 宝物庫の中では何人もの使用人が空のワイン樽に金貨や宝石など、目ぼしい宝物を忙しく詰め込んでいた。 「どーせ残しといても地面に落ちちまうんじゃし、どうせならトリステインが使えるようにしときゃイイ」というジョセフの進言により、城の宝物庫に残っていた財宝を持ち出すための作業が続けられていた。 イーグル号もマリーガラント号も避難民を全員乗せなければならないので宝物を入れる余裕はない。別の運搬手段に関しても、ジョセフのアイディアが解決した。 樽にパラシュートをつけ、それをトリステインとガリアの国境にあるラグドリアン湖に落下させるという方法である。その為に城中のロープや布が集められ、ジョセフが紙に書いたデザインに添ってメイジ達の錬金でパラシュートが作られていた。 それから再び庭に出ると、今度は岬の地図を手にハーミットパープルでの念視を行う。 爆破解体した城の重量で岬を崩落させる大仕事を果たすために、立っている岬を媒介として岬の『地脈』を念視する。地中に伸びた数本の茨の動きが止まったのを確認すると、穴を掘り終えてどばどばミミズをたっぷり食べているモール達の頭を撫でてやる。 掌から流れる波紋に気持ちよさそうにもぐもぐと喉を鳴らすモールは、やがて茨を追って地面の中へ穴を掘っていく。 早ければ馬が走るほどの速度で地面を掘り進めるモールの姿があっという間に見えなくなったのを見送ると、周囲に人の目がないのを確かめてからジョセフはドサリと地面に倒れ伏した。 「いかんッ……ちぃと働きすぎたッ。体がなんかギシギシ言いやがるぞッ」 人前では言えないジョセフの愚痴に、デルフリンガーが鞘から顔を覗かせた。 「そりゃあ相棒は年寄りだからなぁ。それにしたって筋肉痛がもう出てるんだから若いって言えば若くね?」 「それにしたってキツいじゃないかッ。わし前に寝たんは何時の事じゃったかなー……ここに来るフネじゃなかったか? そっから波紋とかスタンドとかガンダールヴとか使いまくりじゃぞ? ジャパニーズビジネスマンじゃあるまいし、NYでこんなに働いたこたーない」 筋骨隆々でノリも軽いので忘れられがちだが、ジョセフは68歳で立派なジジイである。 超能力使ったりチャンバラしたり友人達の技パクったり爆破解体に走り回ったりと、非常に疲れる一日であった。しかもまだ途中だというのがジョセフの疲労を重くする。 「いいじゃねぇか、たまにゃー働いたってバチ当たんないぜ? 特に今日のコイツは大仕事だ。俺っちも随分と長いコト生きてきたが、こんなムチャなコト考えてやろうとかする大馬鹿野郎はたった一人しか知らねぇ」 「ほう、他にいるんか。そいつぁーよっぽどのハンサム顔か性格の悪いヤツに違いないな」 けらけら笑うジョセフの腰元で、デルフも金具をカチカチ鳴らして笑った。 「全くだ、性格の悪さはどっちもどっちだがハンサムっぷりで言ったら相棒は惨敗だな」 「後でルイズの爆発を吸い込めるかどうか実験してみるかなァー」 「OK落ち着け相棒」 軽口を叩きあう老人と剣。 それからしばらく休憩がてら寝転がって夜空を見上げるが、ハーミットパープルを伸ばし続ける為のスタンドパワーの消耗はさしたる休息を取らせてくれない。 「それにしてもアレじゃなー……」 「どうしたよ相棒」 「柱の男やDIO倒しに行った時と同じくらい頑張っちゃおるがなァ。なんでこんなに頑張ってるのか自分でもよく判らん」 輝く月が明るいせいで、満天に輝く星の光はいまいちハルケギニアに届かない。 月ばかりが目立つ空を見上げ、ジョセフは一つ欠伸をした。 「別に見返りとかあるワケでもないしな」 「見返りがほしくて使い魔やっとるワケじゃないぞ? それにエジプトに行く時も波紋は必要最低限にしちゃおったんじゃが、こっちに来てからどうにも波紋ばっか多用しとる。 いかんいかん、これじゃ帰った時にスージーにどやされる。なんで自分だけ年取ってないんだってな。アレ天然のクセして怒ると怖いんよなァー」 「そー言や相棒は孫もいるんだったよな。元の世界に帰りたいかい、相棒」 「帰るに決まっとる」 即断する言葉に、デルフリンガーは次いで問いかけた。 「貴族の嬢ちゃんを残してかい?」 「痛い所を突くのォ剣のクセに」 「剣の仕事は痛い所を突く事だぜ、相棒?」 「上手い事言うのは剣の仕事じゃないじゃろうよ」 「六千年も生きてる伝説の仕事は上手い事言う事だぜ」 「もっともじゃな」 ふむ、と顎ひげを摩り、デルフリンガーにちらりと視線をやった。 「そりゃ帰らなくちゃならん。わしには待ってる家族がいる。先約は向こうじゃからな。だがルイズもほったらかしにしたいワケじゃあない。だから、いつ帰ってもいいようにルイズにはわしの持ってる技術や知識を伝えたい。 今回の爆破解体だってルイズやギーシュ達にわしの知識を伝授するいい機会だしな。このわしがルイズに召喚されたのはその為だと。わしはそう思っとる」 迷いのない声。確固たる意思で固められた言葉に、剣は呟いた。 「なるほど。だから、隠者の紫か」 納得したような声を、ジョセフが聞き逃す訳もない。 「ハーミットパープルがどうかしたのか?」 「いや、なんでもねえ。個人的に納得したっつーだけの話さ」 「なんじゃ、お前にしちゃ歯切れが悪いな」 「つい最近まで錆だらけだったからな、切れ味鈍ってたぜ」 誰が上手い事言えと、とツッコミもしないジョセフにデルフリンガーもそれ以上何も言わず無言で地面に横たわっていた。 今回の計画はジョセフが八面六臂の活躍をしているが、ルイズ達魔法学院の生徒も、作業のシフトにしっかり組み込まれている。 ルイズは爆発魔法で強固な固定化の掛けられた箇所を爆破して回っているし、ギーシュもワルキューレを指揮して堀を掘っている。キュルケもゴーレムを錬金して城の爆破ポイントを回っているところである。 そしてタバサはと言うと。 「ジョセフ」 寝転がっているジョセフに彼女が声を掛けた。 「おお、準備が出来たか」 主人が見れば「何をサボってるのか」と詰問するような場面でも、タバサは普段通りに佇んでいるだけだった。 タバサとシルフィードは、ラグドリアン湖に宝物を満載にした樽達を落としに行く為の人員としての役割を負っていた。アルビオンがラグドリアン湖に再接近する頃合に、パラシュートを付けた樽を牽引して運搬し上空で落とさなくてはならない。 そこで風竜が使い魔である風のトライアングルであるタバサが、この作業に従事するという訳である。 ぱんぱんと服を叩きながら立ち上がるジョセフに、タバサは淡々と語りかける。 「準備は出来たけれど、思っていたより数が多い。何度か往復しなければならない」 「フーム、滅びる前でも流石は王国じゃな。他に人手は?」 「満足に使える幻獣がいない」 「んーまァ、いるなら篭城戦にゃならんわなー」 視線を軽く宙に彷徨わせ、しゃあネェか、と口にした。 「ワルドのグリフォンがいる。アレ使おう。あんまりシルフィードを疲れさせるワケにゃいかんからな」 「無理。騎乗用に調教された幻獣は主人以外が手綱を握ることを許さない」 事実のみを告げるタバサにちっちっち、と指を振ってみせる。 「わしはただの人間じゃないんじゃぞ? まァいいモン見せてやろう」 僅かに首を傾げたタバサをよそに、穴からモール達が出てくる。 「よし、んじゃお前達は庭掘りに行って来い。わしらもこれからまだ仕事があるからな」 頭を撫でられたモール達は嬉しそうにしながらもぐもぐもぐと庭へと進んでいった。 その後姿を見送ってからジョセフ達も厩舎へ向かう。 途中、ワルドと戦った場所の近くを通りかかれば、地面に飛び散った血の痕のそばに切り落とされたワルドの左腕が落ちているのにジョセフは気付いた。 無視するべきかどうするか少々考えてから、ジョセフはずかずかと歩いていって左腕を掴むと、わざわざ屋根つきのゴミ捨て場まで回り道して「燃えるゴミは月・水・金」と書かれたゴミ箱の中へ叩きつけるように投げ捨てた。 多少の回り道してから辿り着いた広い厩舎にいるのは数頭の馬とグリフォンのみ。主人以外の何者かが近付いてくるのに気付くと、鷲頭の幻獣は唸り声を上げて威嚇を始める。 しかしジョセフは何も気にすることなく右手に発現させたハーミットパープルをグリフォンに伸ばし、頭に絡みつかせて波紋を流す。 見る見る間にグリフォンは唸り声を上げるのをやめ、いつでもどうぞと言う様に身体を低く伏せた。 「……驚いた。まるで先住魔法のよう」 学院の人間が見たこともないような驚きの表情でジョセフを見上げるタバサに、ジョセフはしてやったりと笑って見せた。 「こんなモン、チャチな超能力じゃよ。さ、ちゃちゃっと仕事終わらせんとな。突貫工事もいいトコなんじゃぞ、このくらいの規模の工事じゃと調査とか入れて何ヶ月もかける仕事なのを一晩でやろうって言うんじゃからなッ」 グリフォンに馬具を付けて行くジョセフの後姿を、強い視線で見つめるタバサ。 何事か声を掛けようとしたが、緩く首を振って無言でシルフィードの元へと向かう。 ロープでそれぞれを結わえ付けた宝物満載の樽達を引っ張るのは、シルフィードとタバサ、そこに加わったグリフォンだけでは難しい。 数人のメイジがシルフィードとグリフォンに分乗し、複数のレビテーションで浮かせた樽を繋げたロープの端をシルフィードとグリフォンがそれぞれ咥えて運んでいく。 アルビオンのメイジ達は風の流れを巧みに読み、遥か眼下のラグドリアン湖に見事落下する箇所でロープを切り離し、樽をそれぞれ落としていく。 月明かりの中、樽に結ばれたパラシュートが無事に開いて空に花を咲かせたのを見届けると、シルフィードとグリフォンはアルビオン大陸へとトンボ返りした。 グリフォンを厩舎に戻したジョセフは、それからも忙しなくニューカッスル城を駆け巡る。メイジ達の指揮を執るウェールズの元へ行き爆破のタイミングを取る為の演説の内容を打ち合わせしたり、爆破ポイントに不備はないかチェックしたり。 この夜、ニューカッスル城にいる者は例外なく眠りに付けた者はいない。 しかし今から行われる作戦がどれだけの効果を上げるのか知っている者は、ジョセフただ一人。 成果の判らない作業に従事する夜が明け、朝が来る。 鍾乳洞に作られた港から、ニューカッスルから疎開する人々を満載したイーグル号とマリー・ガラント号が出航する。 計画立案を担当したジョセフ達は、アンリエッタから請け負った任務を遂行する為にフネに乗ってトリステインへと帰っていく。 しかし今から玉砕戦に挑むウェールズ達は戦の最終準備に忙しく、ルイズ達を見送る事は出来なかった。 マリー・ガラント号に乗ったルイズは、遠ざかっていくアルビオン大陸を艦尾からじっと見つめていた。 * 「――よってここにアルビオン王家は敗北を宣言する。しかし君達に杖の一本銅貨の一枚たりともくれてやる訳にはいかない! アルビオン王家第一王位継承者、ウェールズ・テューダーがアルビオン王家に伝わる秘められし風の魔法を披露しよう!」 ウェールズは自らの役目を終えた。 風の通りやすい天守から風の魔法で増幅させた声は、間違いなくニューカッスルの岬中に響いたことだろう。 数瞬後に始まるであろう爆発を待ち、城と運命を共にするのを待てばいい。 父王ジェームス一世は自ら志願して最前線へと出向いた。 戦に出向くに何の支障もなくなった肉体で、戦に立ち向かえる父の晴れ晴れとした笑顔は、せめてもの救いであった。 多少心残りがあるとすれば、アンリエッタだけだ。 果たしてあの可愛らしい従妹は、無事に生きていけるだろうか。 「――アンリエッタ……」 最後に渡された手紙を胸に、訪れるべき最後の瞬間に知らず唾を飲み込んだその時―― 「次の殿下のセリフは『どうか僕のことは忘れて他の誰かを愛してくれ』という!」 「どうか僕のことは忘れて他の誰かを愛してくれ……はっ!?」 背後から掛けられた声に振り向いたウェールズは、信じられないものを目にした。 フネに乗って帰ったはずのジョセフが、自らに向かって紫の茨を伸ばしている! 余りの事に杖を取り出す事も出来ないウェールズの身体に茨が巻き付き、茨を辿って流された波紋は、容易くウェールズの意識をホワイトアウトさせた。 「またまたやらせていただきましたァん!」 爆発が巻き起こる天守から、気絶したウェールズを肩に担いで飛び降りるジョセフ! フネに乗って帰ったと見せかけ、ジョセフとタバサはこっそりとニューカッスル城に舞い戻り、礼拝堂で息を潜めていたのである。 全ては、ウェールズをトリステインに連れて帰るため。 ニューカッスル城の爆破解体の真の目的は、レコン・キスタに大被害を与える事などではない。それは目的の一つだが、あくまでも真の目的に至るための過程でしかない。 ウェールズ本人の演説の後発生する、城の解体、岬の崩落という一大スペクタクル。 これだけの大仕掛けをやった後、王子一人がむざむざ生き残るような不名誉な所業を選ぶはずがない。その心理の落とし穴に人々を陥れる為、これだけの大掛かりな手をジョセフは選択したのである。 ワルドが今回の旅で嬉しそうに述べた目的は三つある。 一つはルイズ本人。二つ目はアンリエッタの手紙。そして三つ目は、ウェールズの命。 三つ全てをトリステインに持ち帰るのは、まともな手段では為し得ない。 巨大なペテンの中に混ぜこぜた、あまりに小さな真の目的を看破できる者はほぼいない。 ルイズ達でさえ、ジョセフの真の目的を説明されたのは帰りのフネに乗り込む直前。 タバサを連れて行ったのは、無事にアルビオンからの脱出を成功させる為。 シルフィードと意識を共有するタバサがいれば、空中でシルフィードと合流してトリステインに帰る事が出来る。シルフィードは今、雲の中に隠れてタバサの合図を待っていた。 「説得するのがムリならムリヤリトリステインに連れ帰っちまやイイってこった! ざまァ見やがれレコン・キスターッ!」 計画を大成功させたジョセフが天守から降りてくるのを礼拝堂の屋根の上で確認したタバサは、フライの魔法を唱えてニューカッスル城からの脱出に移ろうとする。 だが。 タバサが唱えようとしたフライの魔法は完成することはなかった。 彼女が紡ぐ詠唱はすぐさま攻撃魔法に代わり――グリフォンに乗った男へ、氷の矢を放った。 しかし氷の矢は巻き起こる旋風に吹き飛ばされ、空中で砕かれ氷の欠片を撒き散らしたに過ぎなかった。 「おっと。そう易々と貴様の手を成功させる訳にはいかないだろう、ガンダールヴ?」 聞き覚えのある声。 ジョセフでさえ、ほんの一瞬だけ何が起こっているのか理解し切れなかった。 しかし、目の前の男が何者かは判る。忘れられるはずがない。 何故ならその男は、前の晩にジョセフに完膚なきまでの敗北を喫し。瀕死の重傷を負っていた筈なのに。 愛馬であるグリフォンに跨るその男は…… 「――ワルドッ!? 何故貴様がここにいるッ!」 腰に下げたデルフリンガーを抜いたジョセフに、ワルドは禍々しく唇の端を吊り上げた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1555.html
その深夜、セッコは彼にしては珍しく悩んでいた。 ルイズは“フリッグの舞踏会”の疲れか、完全に眠りこけていた。 学院長室でのやりとりを思い出す。 「でも?」 「何も分からんでも、恨まんでくれよ。記憶を~」 あのヒゲジジイ、分かっても教える気がねえんじゃねえだろうな。 だが調べようにもここの図書館へは、使い魔や平民は入れんらしい。 そもそも入ったところで字が読めねえ。 元々読めなかったのか、それともここの字がダメなのかは分からねえ。 この時点で自力という選択は却下だ。 誰かに、ヒゲではない誰かに調べてもらうしかねえ。 第一案。 目の前で寝ているルイズを見る。左手の印も見る。 怖いし却下だ。 第二案としてギーシュの顔が浮かんだ。あいつなら何でも聞いてくれるだろ。 だがなあ。 「やっぱし、馬鹿もダメだあ。」 つい口に出しちまった。うう・・・ そうだ。頼めそうな奴がもう一人いるじゃねえか。頭もオレよりよさそうだ。 まだ起きてるかなあ、やるなら早い方がいい。 ルイズは自分のベッドの上で、夢を見ていた。昔の夢。 舞台は生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 「ルイズお嬢様は難儀だねえ。」 「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに・・・」 もうやだ、逃げなきゃ。頑張ってるのにお小言ばっかり。 「泣いているのかい?ルイズ」 後ろから声をかけられる。何で、何でこんなときに憧れの子爵様が。 はずかしくて仕方ない。 「子爵様、いらしてたの?」 幼いルイズは、慌てて平静を取り繕った。 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね。」 「いけない人ですわ。子爵様は・・・」 「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」 「いえ、そんなことはありませんわ。でも・・・わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 ルイズははにかんで言った。 「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ。」 「でも・・・」 「また怒られたんだね?安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう。」 手が差し伸べられる。大きな手、憧れの手。 その時、足元が突然崩れだした。風景が、地面が歪む。 子爵は“フライ”で飛び去ってしまった。 ルイズは飛べない。足が、腰が、沈んでいく。 「た・・・すけ・・て・・・セ・・・」 「あ、あら?!」 とんでもない悪夢だったみたい、このわたしが途中で目覚めるなんて。ひどい汗。 今日はいろいろなことがありすぎて、神経が昂っていたのかもしれない。 「セッコ、水汲んできて。」 反応がない。こんな深夜にどこへ行ったのだろう? いや、あいつがいつの間にかいなくなるのは毎度のことなのだけれども。 「セッコ!」 反応がない。 今まで大声で呼んで来なかったことは一度もなかった。 気になるわ、探してみようかしら。視聴覚の共有ができないって不便ね。 ルイズが目覚める少し前。 「確かに、前シルフィードが止まったのはこの部屋だったと思うんだがなあ」 いくらドアを叩いても反応がない。しかもカギがかかっている。 “潜って”もいいかな? タバサには学院長室で壁から出てくるところを見られているはずだ。 なら、隠さなくてもいいだろ。多分。 セッコの脳に、倫理的な問題云々などという項目はないのであった。 タバサはちょうど“今日の分”を読み終わろうとしていた。 と、ドアがノックされている。 どうせキュルケだろうけれど、こんな夜更けになんだろう? 無理矢理押し入ってこないということは、非常時ではない。無視して寝よう。 パジャマに着替えてからドアと壁に“サイレント”を掛け、静けさを手に入れる。 しかし安息は訪れなかった。 「なあー。」 何者かにいきなり肩を叩かれた。すわ刺客か?慌てて枕元の杖を掴み飛び下がる。 「そんなに驚かなくてもいいじゃねえか。」 幾分しょぼくれた表情のセッコがそこにいた。 「驚くなと言う方がおかしい」 「そうかなあ。」 無邪気そのものの表情で即答された。 セッコの感覚は間違いなく普通とかけはなれている。 人のことは言えないかもしれないけれど。 「で、何?」 「こっそりと頼みがある。」 妙に真剣だ。嫌な予感がしなくもない。 まあ、こちらから訊きたいことも多かったし聞いてもいいか。 「質問に答えてくれるなら。可能な範囲で聞く」 「わかった。」 「うーん、セッコが深夜に行きそうな場所なんてねえ。」 誰に聞かせるでもなくルイズは呟いた。全く行きそうな場所が思いつかない。 夜の学院事情なんて知らないわよ。 ああそうだ、夜に詳しい奴が隣にいたじゃない。あんまり頼りたくないけど。 まだ起きてるかしら? ドアをノックする。 「なによ、眠いんだけど。」 反応があったわ。さすがね、お肌に悪いわ。 「ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら。」 「物凄く珍しいわね。やれることよりやらないことの方が多いわよ?」 キュルケがぶつぶつ言いながらも部屋から出てきた。 いつもながらこの乳むかつくわね。 そうだ、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったわ。 「セッコが行きそうな場所とか知らない?」 「いきなりどうしたの?」 「気づいたらいなかったのよ。いつもと違って呼んでも来ないし。」 「そんなこと言われても知らないわ。 私の魅力より朝食の方が大事な男にはさすがに興味ないし。」 あの朝の事をわりと根にもってるみたい。心の中でセッコを褒めておく。 「やっぱり聞かなければ良かった。」 「うるさいわね。ああ、タバサなら知ってるかもしれないわ。」 「なんでよ?」 「シルフィードとえらい仲よさそうだったわよ、セッコ。」 ああ、そういえばそうだわ。 「案内して。」 「はいはい、恩にきなさいよヴァリエール。」 キュルケについていく。 「あら、ノックする前からサイレントが掛かってるなんて珍しい。」 「それじゃ起こしようがないじゃない。」 「多分起きてるわよ。」 そんなこと言われてもね。 「でも、音が通らないんじゃ気づいてもらえないわ。」 「タバサに話訊いてみたい?」 「そりゃきけるもんなら訊きたいけど。」 サイレント掛かってるんじゃないの? 「・・・アンロック」 「ちょ、ちょっとキュルケ!」 「あなたが話訊きたいって言ったんじゃない。」 「まあそうだけど。」 「と、取り込み中だったかしらあはははは」 キュルケが、気まずそうに言った。 「・・・・・・」 目に飛び込んできたのは、二人の予想を遥かに超越した光景だった。 タバサとセッコがベッドに座って何か話している。 しかもタバサはパジャマ姿だ。 これが意味するものは一つね。一つ・・・ 「うお、何かあったのかルイズ?」 セッコが何か言ってるわ。何か。じゃあないわよね。 「ねえ、セッコ」 「うん」 「あんたが誰とつきあおうが、あんたの勝手。」 「おあ?」 「でも、でもね」 タバサをちょっと見る。うん。間違いない。 「[それ]は犯罪でしょうーーーーーーーー!!」 絶叫と同時に右ストレートでセッコをぶん殴る。 「い、いてえええ!な、なんなんだルイズオメー」 「何じゃないわよ!どう見たって犯罪よ犯罪!!!帰るわよ!」 セッコの足を掴んで引き摺る。 「おああ、おいちょっと待て」 パシッ 「待たないわ。」 「話を聞けっ、よ、寄るなあぁー」 バシッ 「うるさい黙れ。」 「うおあオレ悪くねえ!」 メキッ 「そういう問題じゃないわ!」 「いでえ、何怒ってんだあ!」 ガッガッガッ 「うるさいうるさいうるさい」 「アギェー」 キュルケはセッコを引き摺りながら部屋に戻っていくルイズを見送り、タバサに声を掛けた。 「なんだかんだ言って、よろしくやってんじゃない。」 「だから。勘違い。」 「そうかしら」 セッコがその思慮の浅さにより、ルイズに散々とっちめられている頃・・・。 遠く離れたトリステインの城下町の一角にあるチェルノボーグの監獄で、土くれのフーケはぼんやりとベッドに寝転んで壁を見つめていた。 「まったく、か弱い女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」 苦々しげに呟く。全く杖のないメイジは無力極まりない。 それからフーケは、自分を捕まえた奴のことを思い出した。 「たいしたもんじゃないの、あいつらは!」 とても人間とは思えない素早い動き。 そして、ゴーレムに塗り込めたと思ったのにいつの間にか背後にいたこと。一体何者だったんだろう? しかし、今となってはどうでもいいことだ。 貴族たちを散々振り回したのだ。きっと来週にも死刑だ。 自分の編み出した様々なテクニックも永久に失われてしまうだろう。 諦めて寝ようとすると、聞き慣れない足音に気づいた。 しかも、その足音はフーケの前の鉄格子で止まった。さっと身を起こす。 「おや、こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね。」 黒マントに白い仮面という露骨に怪しい人物が自分を見下ろしている。 杖も携えている。おそらくメイジだ、正直刺客としか思えない。 「[土くれ]だな?」 「誰がつけたか知らないけど、確かにそう呼ばれているわ。」 「話をしにきた」 「話?」 「そうだ、土くれもといマチルダ・オブ・サウスゴータ」 誰も知るはずのない、捨てさせられた自分の本名。 「・・・聞かない、という選択肢はなさそうね。強制かしら?」 「まあ、そうだな。」 「弁護でもしてくれるって言うのかい?」 「弁護どころか、扉を開けてやれるんだがな。こちらの組織に身を寄せてくれるなら、だが。」 「寄せなかったら?」 「この場で殺す。」 「ふん、そうかい。じゃあ仕方がないね。」 「手伝ってもらえるな?」 「ああ。組織の名を教えてくれるならね。」 男はポケットから鍵を取り出し、錠前に差し込んで言った。 「レコン・キスタ」 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/208.html
「成る程、ここが魔法とやらがある世界だというのは理解した」 少女に連れられた部屋の床に胡坐をかき、ヴァニラは憮然とした表情でベットに腰を下ろしたルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、通称ルイズ、そして自称・ご主人様へ頷いてみせる 「分かった?平民が貴族の使い魔になるなんて普通じゃ考えられないことなのよ、感謝なさい」 ルイズの偉そうな態度に思わずプッツンしそうになるがここは堪える まだ聞きたいことがあるのに殺しては拙い、ここは冷静になるべきだ 「それで私はどうすればエジプトに、元の世界へ帰れる?」 この傲慢な貴族の小娘に構っている暇など無い、DIO様に万が一などありえないがまだ戦えるのなら直ぐにでもお傍に参じたい。切なる思いを胸に訊ねる しかしッ 「は?無理に決まってるでしょ。サモンサーヴァントで召喚された使い魔が帰れるわけ無いわ」 ルイズがさらりと告げた事実は忠誠心の塊であるヴァニラを凹ませるには十分ッ! しかしヴァニラは凹みはしなかった、逆に 「ふざけるなこの小娘がッ!!」 「きゃっ!」 突然の怒声と共に立ち上がったヴァニラに気圧され、ルイズは思わずベットの上に倒れる ガオンッ!! 「な、何よ突z・・・・」 気圧された事で貴族としてのプライドが若干傷付いたが直ぐにその考えを改めた 「・・・・何、これ?」 ベットに仰向けに倒れたままのルイズの視界に映ったのは見慣れた天井と、まるでワインの コルクを抜いたように綺麗に刳り貫かれた壁、そしてそこから覗く外の景色だった 「ちょっとヴァニラ、アンタいったい何したのよッ!?」 慌てて起き上がりヴァニラに詰め寄るが何故かヴァニラはヴァニラで驚いていた 「何だこれは!?」 長身の男が怯えたように身体を震わせるのは滑稽を通り越して異常ッ ましてやルイズにはその原因が見えないのだから尚更だ そう、原因はルイズに見えないもの 即ちヴァニラのスタンド、クリームだった 「小さい!縮んでいるのかッ!?」 この世界に来て始めた発動させたスタンドの姿は彼が子供の頃の状態に近かった もし元の大きさならルイズが倒れたところで問題なく亜空間にばら撒いていただろうが 生憎小さくなったスタンドではそれは叶わなかった 「何だか分からないけど・・・・・これはアンタがやったのね?」 ショックを受けているヴァニラにルイズは恐る恐る声をかける 「ああ、私がやった・・・」 ありえない、等とぶつぶつと呟きながら上の空で返すヴァニラを他所にルイズは 「凄いじゃないの!平民なんて使い魔にしてこれからどうしようかと思ったけどこれならキ ュルケにも・・・・・・」 泣きたくなるような小さな胸の中に青写真を描き、はしゃぎだした 「ヴァニラ!アンタこれから・・・・・あれ?」 青写真を現実にすべく使い魔に指令を出そうと現実に戻ったルイズ、しかし部屋には自分以外誰も居ない おまけにドアには鍵がかかっているし開錠もドアの開閉される音も聞こえなかった 他に出口といったら同じく鍵のかかった窓と 「・・・・・・まさか、この穴?」 壁にぽっかりと開いた穴の縁に触れてみるがとても人が、ヴァニラのような大男が通れるはずも無い 「いったいどこに消えたのよ・・・?」 ルイズの呟きは、壁に開いた穴から漏れる宵闇に、静かに溶けた To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/232.html
ズキュウウウウウウウウウウウウウウウン 鉄塔から凝縮された破壊のエネルギーが発射される。 圧倒的なエネルギーの奔流は渦を巻きフーケとそのゴーレムに襲い掛かる 「ひっ・・・」 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!! 先ほどとまったく同じ爆発がフーケを包み込む。 「アラヤダーーーーーーーー!!!!」 ゴーレムは粉々に消し飛びフーケはきれいに吹っ飛んで星になった。キランという効果音つきで。 「あなたの敗因はただ一つ・・・あなたは私を侮辱した」 ビシ、とポーズを決めルイズは空を見上げる。 屋根は完全に崩壊し空に浮かぶ二つの月が煌々と辺りを照らす。 月の光を浴びる錆びた鉄塔はちょっとした絵画のようだった。 「ふ・・・ふふ・・・なんか悪くないわね、こいつ」 フーケを撃退したルイズはいたくこの鉄塔を気に入った。 そうだとも、閉じ込められて最悪の気分だったがこの鉄塔は悪くない、悪くないのだ。 破壊の杖の魔法すらはね返すこいつはある意味最強の盾だ。どんな外敵も恐れる必要はない。 床を整備すれば二階にも住めるようになるだろう。貴族の住処としては、まぁ及第点だ。 ご飯は・・・給仕に運んでもらえばいいか・・・いやそれ以前にまずトイレを・・・ ルイズの妄想が加速し思考が一巡しようとしたとき、 ヴォン ヴォン ヴォン カッ! 「きゃっ!」 まばゆい光が辺りを包み込んだ。その光が消えるとそこには、 「・・・あれ?」 鉄塔は消えうせ足元には一枚の円盤が落ちていた。 次の日学園は大騒ぎになった。 当然だろう、あの土くれのフーケをやすやすと学内に侵入さえあまつさえ宝物庫を叩き壊されたのだから。 だがそれは一人の英雄によって阻止された。言わずもがな彼女、ルイズ・フランソワーズ~中略~ヴァリエールの手によって。 フーケは近くの森で上半身が地面に刺さった状態で衛兵に発見された。 あの爆発でよく生き残れたものだとルイズは感心した。ギャグって素敵ね。 「ミス・ヴァリエール、良くぞフーケより破壊の杖を死守してくれた」 「いえ、オールド・オスマン。残念ですが破壊の杖は・・・」 破壊の杖はフーケのゴーレムと一緒に消し飛んでしまった。 当然と言えば当然だろう。フーケが生きていることのほうが奇跡なのだから。 「よいよい。フーケに杖を盗まれなかった、このことが重要なのじゃ。貴族の面子と宝物庫の宝一つ。 どっちが重要かは火を見るより明らかじゃ」 「ミス・ヴァリエール、あなたには精錬勲章の申請を行うことにしました。あ、もちろん 使い魔の再召喚もすぐに行えるように手配しています。建物が直るまでもう少し待ってください」 「・・・・・・・・・・・・・」 そうだ。彼女の召喚した使い魔はあれ以来消えてなくなった、銀色の円盤を残して。 「ちょっと! ちょっとあんたどこいったの?答えなさいよ! ねえ!」 「ご主人様に黙って消えちゃうなんて許されると思ってるの? 使い魔のくせに!」 しかしその呼びかけに答えが返ってくることはなかった。 最初から最後まで鉄塔は無言を貫き通し、そしてクールに去っていった。 「はぁ・・・・・・」 それゆえに彼女は精錬勲章の話を聞いてもあまり嬉しくなかった。 無論一生鳥籠の中よりは絶対今の状況がましなのは事実だが。 あーあ、せっかくあいつとなんとかやっていけそうになるかなと思ったのにな。 ルイズはひとりごちた。 銀色の円盤の正体はは結局何なのかわからなかった。それは光に当てると虹色の輝きを発する不思議な円盤だった。 円盤の裏にはなにやら文字が書き込まれてあったがトリスティンで使われている文字でないらしく、読むことは出来なかった。 ガラクタ好きのミスタ・コルベールは早速目をつけこの円盤が何なのかを研究に取り掛かった。 しかし、彼の知識をもってしてもこの円盤がなんなのかをついに解明することはできなかった。 「いやいや、解明できなかったとは失礼じゃぞい。確かにこの円盤の正体はわからなかったが裏側に書いてあった 文字はほれ、解読できたぞ」 「! なんと書いてあるのですか?」 「うむ、この文字はトリスティンはおろか、ゲルマニア、アルビオン、どの国の言葉でもない。 しかし東方から伝えられたと言う書物に同じ文字が使われておった。 この左側の五文字は「SUPER」、右側の三文字は「FLY」と読むらしいのじゃ」 「SUPER・・・FLY・・・スーパーフライ?」 「うむ、書物どおりに読み解くと『素晴らしき大空』という意味らしい」 「素晴らしき・・・大空ですか」 それがあんたの名前なの? その問いかけには無論、円盤は答えなかった。 結局円盤は破壊の杖の代わりに宝物庫に収められる事になった。 トリスティン魔法学園を救った英雄の使い魔、そのなれの果てとして。 2ヵ月後 「それではミス・ヴァリエール前へ」 「はい」 待ちに待った再召喚の儀式の日。 私の心は嫌が応にも高まった。 今度こそちゃんとした使い魔を。あいつなんかより愛想がよくて働いてくれて・・・そしてクールでかっこいい使い魔を! 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ・・・・この後彼女はトリスティン魔法学園の地下一円に広がる大迷宮を呼び出してしまうことになるのだが、 それはまた別のお話。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/929.html
第一章 使い魔は暗殺者 中編 リゾットとルイズが歩いて城に戻ると、すでに次の授業は始まっていた。 ルイズは渋々ながら使い魔を引き連れて次の授業に出席しようとしたが、リゾットはそれを聞いてあっさりと首を振った。 「悪いが、仲間たちの様子を見に行きたい」 その言葉遣いにルイズはご主人様に対する礼儀がなってない! と叫んだが、リゾットは何処吹く風といった様子だったので、まあしょうがないわね、と許可を出した。 何しろ、これ以上遅れたら教師にどれだけ怒られるか分からない。 ルイズは近くを歩いていた黒髪のメイドに声を掛けると、リゾットを救護室まで案内することと寮の自分の部屋の場所を教えるように言った。 ルイズと同じ年頃のメイドはそれを礼儀正しく承ると、リゾットを連れて救護室へと向かった。 話は少し遡る。 まだリゾットとルイズが草原を歩いている頃、コルベールによって運ばれた六人のうちの一人が目を覚まそうとしていた。 トリステイン学院の救護室はかなり広い。 戦争が起きた場合、この学院も砦として活用されるので、大勢の兵士を収容するためなのだが、平和なときは無駄な広さである。 しかし、今はコルベールが連れてきた六人の奇妙な平民たちが眠っていた。普段使用しないベッドにもシーツを敷き、布団をかけて昏々と寝ている。 水のトライアングルメイジである治療師は全員に外傷が無いのを確認し、目が覚めたときの説明役のために椅子に座る。 地方の小貴族の三男坊だった彼は、一応貴族ではあるが、領土は持ってない。 領土がないということは、職が無いということなので、働かなければいけない。 けれど、この職が中々見つからない。実力の無いメイジだと門戸は狭いし、やっと就職できたとしても給料は安い。 そのせいで危険だけれども金になる傭兵や泥棒などになるメイジもいる。 国はそんなメイジを貴族の恥さらしと呼んで必死になってとっ捕まえようとしているが、そんなことをする前に給料上げた方がいいんじゃないのか、と彼は思っている。 ちなみに彼は水のトライアングルであったし、治癒魔法に優れていたのでけっこう門戸は広かった。 そんな中でこの学院の治療師を選んだのは年老いても出来そうな仕事だったからだ。それに、子供たちと触れ合う事も楽しかった。 そんな彼も六十の半ば。そろそろ退職時期かと考えていた。けれど後任の治療師が来ないので今に至る。 (オスマン学院長もそろそろ誰か採用してくれんかのー。この歳だと患者をベッドに寝かせるのも一苦労なんじゃ) コルベールが手伝ってくれたからどうにかなったものの、六十代の老人には少々骨の折れる仕事だった。 何しろ全員屈強な男たちだ。一人だけ女のような奴がいたが、しっかり筋肉はつけているようで、中々持ち上がらなかった。 (にしても、奇怪な格好だわ。最近の平民の間ではこんな服が流行っとるのかの。見たことの無い材質もあるようだし……。特にあの片目を隠すのは最先端流行ファッションとかいうやつかの?) 治療師は一番奥のベッドに寝ている男に視線を移す。 最初は女だと思った平民だ。 ちゃんと見ると男だと分かるのだが、他のがっしりとした骨格の男たちに囲まれると、アレ? となる。 奇妙な対比である。 しかし、彼らが運ばれてからすでに三十分ほど経過しているが、誰も起きない。 治療師は少し退屈してきたので、自室から本でも持って来ようかと腰を上げた。 と、そのとき、 「……う……うぅ……?」 眠っている一人が僅かな唸り声を上げた。 見れば一番奥のベッドで横になっていた妙な目隠しをつけた男がもぞもぞと動いている。 治療師は驚き、彼にしては早いスピードで側に近寄った。 「おお、目が覚めたかの?」 枕に顔を擦りつけ、ごにょごにょと何かを口にしている男に、治療師はそう尋ねた。 「…………ん? 何だ、ここは……。オレはいったい…………はっ、蛇だ! 蛇が!」 すると、声に反応して目を開けた男は突如として上体を起こして叫んだ。 治療師はそれを避けようとしてひっくり返りそうになったが、後ろの壁に手をついて何とか体を支える。 「お、落ち着きたまえ。ここに蛇は居らんよ。ここはトリステイン魔法学院の救護室じゃ」 「って、ここは駅じゃない? テルミニ駅にはこんな石で出来た部屋はないはずだ……。 ということは、何者かに運ばれたという事か? ブチャラティの奴らではないな……。 ボスの配下か?」 が、男は治療師の声が聞こえていなかったらしい。 ブツブツと独り言のような声で早口に何かを喋っていた。 治療師はこの平民が『サモン・サーヴァント』で呼び出されたことを思い出して、男の混乱に納得する。 そうして、もう一度声を掛けた。 「ここはトリステイン魔法学院だよ。 君たちは生徒の『サモン・サーヴァント』によって呼び出されたんだ。 ここまではミスタ・コルベールが魔法で運んできてくれたんだよ」 ぴくっ、と男の肩が揺れた。どうやら今度はちゃんと耳に届いたようだ。 治療師はこれで一安心と息を吐きかけて、 「トリステイン魔法学院? 『サモン・サーヴァント』? 魔法で運んだ? …………どういうことだ? 答えろ! お前は誰だ?!」 ぎょっとした。落ち着くどころか益々興奮した男が治療師の胸倉を掴んで喚く。 だらだらと汗を流して、眉は吊り上がり、目は爛々と輝き、唇の端は捲りあがっている。そのあまりの剣幕に治療師はひぃっと、小さく悲鳴を上げた。 怖すぎる。左目だけがこちらを睨んでいるのも怖い。 杖は職務机の脇に立てかけているので魔法を使うことも出来ない。 「答えろって言ってるだろ?! ここは……、ここは……、魔法が存在する世界なのかッ?!」 「…………………………………………………………………… ……………………は?」 ああ、わしの人生オワタと、心の中で始祖ブリミルに対する祈りの言葉を唱えていた治療師は、 続いてとても嬉しそうに発された間抜けな質問に、心底気の抜けた声を出した。 プロシュートはぼんやりとした気持ちでどこかに立っていた。どこかは分からない。 というより、足に何かが触れている感じがしない。 黒で塗りつぶされた空間の中に、曖昧な感覚のまま立ち尽くしていた。 自分は死んだはずだ。と、プロシュートは思った。 ブチャラティと戦い、列車の外に飛ばされ、ブチャラティの策略にはまり落とされた。 それでもペッシを援護するために車輪に捕まり、ザ・グレイトフル・デッドを使っていたが、 段々意識が薄れていきとうとう…………途切れた。 ――ペッシは娘を手に入れられたのだろうか? メローネとギアッチョはどうしているのだろうか? リゾットはボスを倒せたのだろうか? 残された仲間の事が気に掛かるが、プロシュートには確かめる術も無い。 ただ、この漆黒の闇に囲まれていることしか出来ない。 それにしても、ここはどこなのか。天国でも地獄でも無いことは確実だが。 死後の世界とはこういうものなのだろうか。 何もすることが無いので、プロシュートはこの場所について考える。 けれど、すぐに堂々巡りするだけだと気付いて、別のことを考えようとした瞬間、 ぐいっと何かに引かれる感触がした。 ――何だ? プロシュートは錆び付いた歯車のように働かない思考で呟いた。 その間にもプロシュートはぐいぐいと引っ張られていく。 上か下かは分からないが頭の方向へと、何かがプロシュートを運んでいくのを感じる。 それと同時にプロシュートを囲っていた闇が薄くなっていった。 頭上から光が射してきたのだ。 それは瞬く間にプロシュートの周りの闇を払うと、さらに輝きを強くする。 ――くっ、目が! プロシュートは反射的に顔を庇った。 そうして、あまりの眩しさに目が開けられなくなったとき、目が開いた。 「……か! ディ・モールトッ! ディ・モールトッ! よいぞぉッ!」 目が覚めた瞬間、プロシュートは自分がベッドに寝ていることに気付いた。 白い、清潔そうなシーツだ。あまり使われて無いらしく、生地は少し硬い。が、手触りはよかった。 「…………またメローネがゲームをやってるのか。 普段は冷静で頭脳派なんだが、ジャッポネーゼが絡むと途端に人が変わるからな……。 それがなけりゃあイイ奴なんだが……」 起き抜けに聞こえたメローネの歓声から、ここがチームの家だと判断したプロシュートは 二度寝をしようともう一度毛布を頭から被り――、 「ちょっと待てぇぇぇぇぇッッッッ!!!!! これはどおぉぉいう事だあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」 有らん限りの音量を振り絞って叫んだ。 そうして、それを耳にした残りの仲間たちが、 「なんだ?! プロシュート! 敵か?!」 「おいおい、プロシュートォ。いきなり叫ぶなよ。煩いだろぉ」 「プロシュート兄貴! なんかあったんですかい?!」 「うっせぇぇなぁプロシュート。オレは眠いんだ。起こすなよ」 と、プロシュートとの関係がよく分かる言葉を発してくれた。 ホルマジオとペッシは非常事態だと思い、勢いよく上体を起こした。 イルーゾォとギアッチョは耳を塞いで眠る気満々の姿勢だ。 そんな二人の反応――ホルマジオとペッシは飛び起きたのでよしとする――にプロシュートはギアッチョよりも盛大にブチギレた。 「これが叫ばずにいられるかぁッ!!! なんでオレは……オレたちはここに居るんだッッ?!! オレたちは……それぞれに別れてブチャラティたちを追っていたはずだ!!!」 その言葉に、ベッドの上に居た六人は、この状況の異常さに気付いた! 「そうだ! オレは……ナランチャの野郎に殺されたはずだ!」 「オレはあの三人と戦って変なウイルスに……。 クソッ、もう少しで鍵を手に入れることが出来ていたのによぉ!」 「お、オレは兄貴の仇を取ろうとしてブチャラティにバラバラにされたはずなのに……。 な、なんでこんなところに?」 「オレは……、ミスタの野郎を殺そうとして、新入りのヤツに殺された……。 クソクソッ! あと一歩だったのによ!」 「オレはブチャラティを列車から落とそうとして逆に落とされた。 最後の力でザ・グレイトフル・デッドを使ったが……。駄目だったと言うわけか」 五人はベッドから飛び降りると、輪になって互いに自分たちが失敗したときのことを語り合った。 そして、全員が語り終わると同時に、部屋に沈黙が落ちる。 自分たちは負けた。それならばリーダーは? 数少ない情報でボスを倒せたのだろうか。それとも、死んでしまったのか。 「…………とにかく、なんでオレたちはこんなところにいるんだ? 全員、別々の場所で死んだっていうのに、こんなところに揃ってるのはおかしいだろ」 まるで通夜か葬式のような雰囲気になった気分を吹っ切るためにプロシュートは強引に話を切り替えた。 最初に気付いたせいか、当初の驚愕は比較的治まっていた。 混乱して喚いていても、任務の失敗を思い出し沈鬱としていても、意味は無い。 今やらないといけないことは、この状況を把握してリーダーのところへ帰ることだ! 五人は戸惑い揺れていた瞳に決意と覚悟を宿すとぐっと表情を引き締める。 そうして、互いの顔を見合わせた――ところで、メローネがいないことにようやく気付いた。 「おい、メローネのヤツはどうした?」 「まさかあいつだけここに来ていないとかいうオチじゃねーよな」 「そ、そんな……。メローネだけ居ないなんてこと……」 「チェッ、あいつだけ仲間はずれってことか?」 「いや、オレはあいつの声で目が覚めたんだ……」 仲間が一人居ない。そのことに妙な不安を感じて四人は顔を見合わせる。 が、一人プロシュートだけは確信をもって周りを見渡し……、 「おお! すごいぞ! こんなことも出来るのか!」 「ほっほっほっほっ。 これは基本の基本である『錬金』で、位が高いメイジならさらにすごい事も出来る。 わしはトライアングルメイジの中級クラスぐらいの実力だからそうはできんがな。 それに、『錬金』を得意とするのは土のメイジだから水のメイジであるわしはあんまり使用せん」 「なるほど、なるほど。相性というものだな? ふむう……しかし魔法というのは貴族の血を引かないと使えないのだろう? それなのに全てのこういった作業を魔法だけで行っているのか?」 「うむ。メイジは数が少ないからね、非効率ではある。 それに、こういった仕事は給料が低い事もあって専門的に行うメイジはほとんど居らん。 自分が必要だと感じたときに自分が必要な分だけ作るというのがメイジの基本になっとる」 和気藹々と語り合うメローネと、黒いローブを纏った変な老人を見つけた。 こちらがすごい覚悟をした後で、少々盛り上がっていたところなので、そのギャップはかなりすごかった。 どれくらいすごいかというと、 シリアスなシーンでスマイル全開でタップダンスを踊るリゾットを目撃してしまった! ぐらいの衝撃である。 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 さっきとはまた違った意味で不穏な空気が五人を包む。 ペッシは、どこからともなくゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音や、 ド ド ド ド ド ド ド ドという音が聞こえてきた気がした。 なんだか周りに居る仲間や兄貴の顔が大変な事になっていっている。 反対に自分はどんどん脂汗を流しているような気がしてきた。 (プロシュート兄貴ィィ~~~~~ッ。目がイってるぜ~~~~~ェェッッ) ペッシは後退る。ブチャラティとの戦いでマンモーニから脱却したとはいえ、 まだまだ経験の浅いひよっこでしかない彼には、この本物たちの放つ気配は重い。 「なるほど! なるほど! ディ・モールト! ティ・モールト! よく分かったぞぉ! だからこそ貴族は平民を支配できているのだな! そういった科学技術を独占する事で!」 「そうとも言えるな。平民には鉄を精製したり火の秘薬を作ったりすることはできん。 ところでカガクとはなんなのだ?」 「あっ! あっ! それは秘密だな。 オレたちにとって重大な秘蘊(ひうん)だからだ。タダで教えるわけにはいかないものだ」 そんな彼らとは正反対に、メローネは至極楽しそうに会話を続けている。 ああ、こんなに楽しそうなメローネはベイビィ・フェイスの息子を操作しているときか、ジャッポネーゼ絡みのときだけだ。 そう、老人と語り合う彼は、とても、とても、とても――――幸せそうであった。 ブッチィィィィ―――――z______ンッ!!!!! その瞬間、何かが切れる音をペッシははっきりと耳にした――と思った。 「めぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ペッシを除く全員が、声を揃えて怒鳴る。 あまりの大音量に毛布が浮かび上がった。枕も宙に浮く。ベッドも床から足を離した。 地球のギネスブックには、『閉店だ!』と叫んだ酒屋の亭主が窓ガラスを割った記事があるが、 そのレベルの大声である。ローブを着た老人は漫画のように飛び上がった。 しかし、メローネはふんふんと鼻歌を歌いだしそうなくらいの上機嫌な空気を撒き散らしつつ、 「オマエたち起きるのが遅いな。寝てばっかりいると脳が溶けるぞ」 と、のたまった。 ――ちなみにそれに対するプロシュートたちの返答は――スタンドでの容赦ないオラオララッシュであった(人、これを自業自得と言う!)。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/316.html
ルイズは学院長室を出て、廊下を渡りながらどんどん気分が沈んでいくのが わかった。理由は明白、彼女が頼まれた、というよりも命じられたのがンドゥール の調査であるからだ。 それすなわち彼にはなにがしかの価値があるという証明、『ゼロ』のルイズ にはないものだ。 現時点で、ルイズはたくさんの視線を浴びている。それは以前までの嘲笑で はなかったが、決して気分のいいものではなかった。なにせその元凶は使い 魔のンドゥール、呪文も唱えずに魔法を使うメイジかもしれないと思われて いる男だ。自分はおまけ。 このままいけば近い将来、立場が逆転する可能性だってあるのではないか。 使い魔のルーンは刻んだとはいえなんの束縛力もないのだ。 ルイズはため息をつきながら自室の近くまで来る。すると、彼女の目に奇妙 なことをしている二人が映った。一人は使い魔であるンドゥール、もう一人 は憎きツェルプストー家の女、キュルケだった。 「ちょっと! 人の使い魔になにしてるのよ!」 ルイズは怒りを露にして詰め寄った。 「まだなんにもしてないわよ。これからするの。ね、ンドゥール」 腕を絡ませ豊かな胸を押し付ける。その上ルイズを見やり、わざとらしく鼻 で笑った。もちろんされたほうはたまらない。 「あんた、いい加減にしなさいよこの色情狂! ツェルプストー家って年中 発情期なの!?」 「何を言ってるの。私は単に彼に恋をしただけよ。平民でありながらあっさり 『青銅』のギーシュを倒した男。心に火が燈ったわ」 「うるさいわよ! 大体そいつはあたしの使い魔、許可なく口説いてんじゃないわ!」 「あら、彼だって一人の人間よ。使い魔だって言っても意思があるわ。ねえ ンドゥール、こんなのほっといて私の部屋に行きましょう?」 「ふざけないで!」 二人の視線が交差、中心では火花が起こっていそうだった。まさに犬猿の仲 である。巻き込まれたンドゥールはうんざりしていた。 「面倒だ。帰ってくれ」 「あん、つれないわ。でも私はいつでも待ってるわよ」 「二度とくるな!」 キュルケは笑いながら去っていった。 残ったルイズは湧き上がった怒りをンドゥールに向けようとするが、それは 急速にしぼんでいってしまう。一時的な感情では自身の劣等感を吹き消すこと ができないのだ。 ルイズは無言でンドゥールの脇を通り抜け、自室に入ってベッドに倒れこんだ。 今日のところはもう授業はないためのんびりと体を休ませるつもりだ。 ンドゥールも入り、定位置となっている藁を積み重ねただけの寝床の上に座り 込んだ。 それからはまるで彫像のようにびくともしない。 (こいつ、いったいどう思ってるのかしら) 遠い故郷、エジプトとやらのことでも思い出しているのかもしれない。 もしくは『あの方』という人のことを考えているのかもしれない。 自分が見知らぬ土地へとやってきた場合、まずなによりも帰りたいと願う。 ルイズはそう思った。 翌日、虚無の曜日だったため授業はなかった。ルイズはゆっくりと休日を過ご そうかとも考えたが、オスマンからンドゥールの調査を頼まれているため何が しか探りを入れる必要があった。で、思いついたのが、街へ出ることだった。 「ずっと学院に閉じこもってるわけじゃないし、人ごみとかにも慣れていかな くちゃいけないものね」 「地元は人の往来が激しかったが、俺もどんな街があるか気になる。だがルイズよ。 そこまでどうやっていくのだ?」 「馬よ」 ルイズは朝食を摂ったあと、厩舎で馬を一頭借りた。ンドゥールと二人で乗り 手綱を引く。 「落ちないようにしっかりつかまってなさい。飛ばすわ」 ブヒヒンと馬はいななき、草原を走り出した。その逞しい肉体にたがわず、風 のように駆けていく。ルイズはぐんぐんと過ぎていく景色を眺めながらわずか に上機嫌だった。なにせようやく優位な点を見つけたからだ。 ンドゥールは、らくだという馬に似たものに乗った経験はあるようだったが、 自分で手綱は引けないといったのだ。自分は魔法を使えない『ゼロ』で、 ンドゥールはドットを軽くいなすメイジかもしれない。しかし今だけは自分が 勝っている。がっしりと太い腕でつかまれていることは嬉しかった。頼りに されているという事実は彼女の劣等感を和らげた。 数時間後、街に到着したルイズたちは馬を預けて中へ入っていった。確かに 学院とは比較にならぬほど人がいるというの道幅も広くない。慣れているはず のルイズでさえ嫌な顔をしている。 「離れないでよね、ンドゥール」 「ああ」 仮にはぐれたところでルイズが声を出せばその位置をンドゥールが探り当てる ことができるのだが。二人はたいした目的もなかったので適当な店で果物を買い、 ベンチでそれを食すことにした。 一口かじると爽やかな甘みが広がる。そのおかげで疲労も軽減された。ルイズ はンドゥールに尋ねた。 「あんた、これを食べたことあるの?」 「ある。そんな滅多にではないが」 二人が食べたものは真っ赤に熟したりんごだ。 「最近は厨房の人間に分けてもらったことがある」 「は? なによそれ」 「シエスタを庇ったお礼だそうだ。あれから何度か賄いをわけてもらっている」 「ちょ、聞いてないわよそんなの! まるっきり餌付けじゃないの!」 「お前がまともな食事を与えんからだ。さすがに飢えは凌げるが、あれでは 栄養失調になってしまう」 「なによそれ。あたしが悪いの?」 「そうだ」 ルイズの心に亀裂が走った。 ああ、そのとおりだ。確かにまともな食事を与えようとしなかった自分が悪い。 でも、それなら一言ぐらいあってもいいじゃないのよ。 沸々と、静かにだが言いようのないものがこみ上げてきていた。怒りではない。 ルイズは立ち上がり、すっすと人ごみの中へ入っていった。 「どこへ行くのだ?」 「帰るのよ。一人で」 「なに?」 「だから帰るの。あんたは適当な人に頼んで送ってもらいなさい。どうせ一人 で馬にも乗れないんだから」 そういって彼女は走った。街の中央から入り口へと全力疾走した。が、体力は あまりなく人ごみを掻き分ける必要があるのですぐにばててしまった。 ルイズは店の壁に寄りかかり、深く息をついた。 別に本気で帰ってしまおうと思ってはいない。それでも、きっと一気に馬の ところにいけていたらさっさと街を出ていた。それぐらいの感情だった。 がやがやとした街の喧騒もどこか遠いもののように感じながら、彼女は空を 見上げた。白い雲と青い空の対照美が美しくあった。ふと、太陽が視界に入った ので眩しく感じ、目を閉じた。 色が消えた。 ざあと血の気が引く音をルイズは聞いた。 胸焼けが起こり、おもわず地にうずくまってしまった。彼女はようやくンドゥール が馬に一人で乗れない理由がわかった。既知の事実、目が見えないからだ。 聴覚がいくら常人離れをしていたところで、どうして暗闇を突き進むことが できるか。それも自分のものではなく獣の足で、すさまじい速度で。 無理だ。絶対に無理だ。 朝方に和らいだ劣等感は内側から破裂した。ルイズは己の小心さに恥と恨み に似た感情を抱いた。 生まれが特別だから貴族なのではない。貴族たる矜持と誇りをもつものこそが 貴族なのだ。 そんなこと耳が腐るほど母から言い聞かされていた。それなのに、自分は頼ら れるということに愉悦を感じていた。彼を人間的に『下に見てい』た。卑しい 喜びに震えていた。 いっそこの眼を潰してしまいたいとさえ思った。そうすれば四六時中暗闇に 居続けられる。しかし、それでもンドゥールが感じているものの十分の一に も届かないだろう。景色がすぐに思い描けるからだ。この記憶がある限り、 決してンドゥールの心の奥はわからない。 自己嫌悪で死にたくなった。 (なんであたしこうなのよ……) ルイズは街の中央に向かって歩き出した。進みは遅いが、着実にンドゥール と別れたベンチに近づいていった。が、人ごみが消えたとき、ルイズの頭の中 には困惑が広がった。 そこにはバンダナを巻き、コートを着て杖を持った巨漢はいなかった。 ンドゥールはいなかった。 周りを見ても群を抜いて背が大きいはずの姿が見えなかった。 冷や汗で背中がびっしょりとなった。本当に一人で帰ってしまったのかもしれ ない。けどそうじゃないかもしれない。 ルイズは深呼吸をし、恥を堪えて叫んだ。 そうすれば、気づいてくれる。 「ンドゥール! ここに来なさい!」 「なんだ?」 「んきゃあ!」 驚きのあまりルイズは地面に突っ伏した。それをンドゥールが見えない瞳で 見下ろしている。 「あ、あああ、あんた、いいいつからそこにいたのよ!」 「ついさっきだ。お前の様子がおかしかったのでな。後をつけた」 さっきと違い、ルイズは自分の顔が赤くなる音を聞いた。気恥ずかしいという 思いがあったが彼女はしゃんと立ち上がり、ンドゥールに向かい合った。 「なんだ?」 「………かったわよ。あんなこといって」 「なに? よく聞こえん」 「うそ言わないでよ! あんたの耳なら聞こえてるでしょ!」 「いや、発音が悪く――」 「うるさい! ほら行くわよ! どうせだからなんか買ってあげるわ!」 ルイズはゆっくりと歩きだす。 今度はンドゥールの前ではなく横だった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/218.html
「あなたの口から説明はいらない、言い訳もいらない」 「何を言っているんだい、モンモランシー」 「感づいていないとでも思ったの? あなたの二股に」 「ギーシュ様? それってどういう…」 「あああ、これはだね、ケティ」 ヒュ!! バギァ 「あがんッ…あがッ、あがッ」 メシッ ブシャア ギーシュの頬にグーの手がめり込んだ 噴き出す鼻血ッ ぶざまにひっくり返ったギーシュに、モンモランシーは冷たい目つきだけを向けた 「言い訳はいらないと言ったでしょう そして…さよなら あなたはつくづく最低の男だったわ」 「え? ああっ」 ケティを引っ張っていくモンモランシー 彼女の口から事情をキッチリ説明してやるつもりなのだろう… とり残されたギーシュはざわつく観衆の中 注目の的になっていた 「なぁにが『ボクは薔薇だよ』、だよなあ」 「サイテーね」 「モンモランシー 最近、夜に出歩いてたのって もしかして…」 「自分で恋人の浮気調査とはなあ、フビンな」 「人を見る目ないんじゃないの アレとつきあう時点で」 「いやいや グラモンは武門の名家だぞ 一応」 「ウワサだと父親も色の道では剛の者だとか」 「なに? 五男とか五女とかまで作るの? …浮気で」 「それもフシギじゃないかもなあ アレを見てると」 笑われている…侮辱されているぞ ギーシュ・ド・グラモンッ それも自分のことだけならいざ知らず 家のことまで 本来ならケティとモンモランシー 二人の間のことだけですんだはずだったのに… それを、それを こんなッ ゆるせん キサマはゆるせん …キサマ、というのは…… ギーシュは周囲を見回し、やがて視線をひとつに固定させた あれは確かルイズの使い魔 平民とはとてもいえない謎パワーを持ったやつ そうだ、こいつが皆を連れてきたんだッ キサマ…きみさえいなければッ! 「…きみィ」 やつはスットボけてまわりをキョロキョロ見渡す そこまでぼくを愚弄するのか? 「あなたみたいよ」 「えぇ、オレ?」 キュルケに言われてやっと気がついた「フリ」か まあいい、耳をカッポじって聞いてもらおう 「キミのせいで二人のレディの心が傷つけられたじゃないか どうしてくれるんだい…えぇ?」 「オ、オレのせい…?」 「この礼儀知らずの平民が… こんな深夜に走り回って衆目を集めるとはよほどの野蛮人だな あまつさえモンモランシーをこんなところへ連れてくるとは」 「なんだ、おいっ、一方的にッ」 「いいかい? 知られたくない秘密を暴こうとする無粋なヤツはな… この世の汚物だ、いてはならないッ!!」 ビシィッ 薔薇を取り出し、口にくわえる 青銅のギーシュ 戦闘体勢ッ!! 「払わせてやるッ 彼女らの魂の尊厳、その代償を―――ッ」 「むっ、ムチャクチャ言ってんじゃねェーよ このスケコマシの坊ちゃんタレ! てめーのこと全部タナに上げやがってよぉぉ――」 「そうだそうだー」 「みっともないぞぉー ギーシューッ」 鼻血がタラリ… うるさいッ ひっこみなんぞつくものか こいつのせいって言ったらこいつのせいなんだからなッ 「決闘だッ」 さて仗助である こんなアホな言いがかりにつきあってやるつもりはモチロンなかった 次のセリフはこうだった 「勝手にやってろよ、一人でッ」 だがそれよりも先に口を開いたのは隣のルイズ 「な、なに勝手なこと言ってんのよ」 「キミは黙っていたまえ、ゼロのルイズッ」 「ゼロは関係ないでしょ ゼロは―――ッ 人の使い魔をキズものにされちゃ、黙ってられないわよッ」 この一言がテキメンに仗助の気を変えた もはや逃げ場がないということもあったのかもしれない ならばこれはせめてもの抵抗というわけだ 「決闘だな? …いいよ、受けてやる」 「おまえ、勝手にッ」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「だれがテメーの召使いになったよ?」 立ちふさがったルイズを仗助は軽く突き飛ばした 明確な拒絶の意を込めて また尻もちをついたルイズは少しぼんやりしたあと 涙をぽろぽろ流し始めた…心底、くやしそうな顔で だが仗助に言わせてみれば、かまってられるかボケ、だった その肥大しまくった自我とかなんとかをこの機会に叩き直しやがれ 本気でそう思った 「表に出たまえ」 「…ああ、どこでもいいぜ…」 ギーシュの後に続こうと歩き出し 泣くルイズの横を通り過ぎると 一緒にいた赤毛の女が呼び止めてきた 「ちょっと」 「なんスか…」 「あいつは『青銅』のギーシュ。 見栄っ張りの小心者だわね」 「…それが?」 「すでにあなたは手の内をさらしてるでしょ。 だから公平じゃないと思っただけ。 ま、受けた以上は勝ちなさいな。 負けたら死ぬと思ってね…」 仗助は軽くうなずいて、小走りでギーシュを追いかけた そのあとから聞こえてきた声は、よく聞き取れなかった… 「…あたしとしても、投資をムダにしたくないものねー さてと、タバサ、タバサ…あの子も呼びましょっと」 今は夜中である トリステイン魔法学院の教師にしてトライアングルメイジであるコルベールは いつもであれば自分の研究に没頭している時間帯であったが 三日前のあの事件から別な考え事に支配されていた…すなわち、ルイズの使い魔である (先例のない危険な存在が召喚されたと思った 生徒を守るためになら殺しもいとわぬつもりだった) 見た目は人間だが、あのおそるべき破壊力ッ 人間の頭と兜を融合させる奇っ怪な能力 そんなものがいきなり暴れ出したのだ あの時点での判断が間違っていたとは思わない…だが (その本質は万物を修復する『癒し』の力だったというのか…) 高レベルのメイジであれば、建物の修復程度はわけなくこなせる しかし、それと同じノリで 死に瀕した人間を一瞬で元通りに修復するわざなど 水系統のスクウェアメイジでもできるかどうか… ともあれ、その力でルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを救ったことに変わりはないのだ そして彼女は『多額の賠償金』を支払い、彼にコントラクト・サーヴァントを行った 今も昏々と眠り続けているだろうあの使い魔が目覚めたとき 自分は一体、彼をどのように扱うべきなのだろうか? 古い文献をあたって必死で類似例を探してみるが、今日も努力はムダだった 仕方ない、寝るか そう思って、ふと窓の外を見てみると 「…なんだ、生徒達…どうした?」 コルベールは魔法の杖を持ち、外に飛び出すことにした 二十人以上の野次馬が見守る中 仗助とギーシュの決闘は始まろうとしていた 「…月が、ふたつ…」 ゴシゴシ ゴシ 「…消えねぇ~~~ 空から消えねぇ~ ありえねぇッ」 「何をやっているんだねッ! 今さら怖じ気づいてもムダだからなッ」 空を見ながら必死で目をこすっていた仗助は 準備万端のギーシュに怒られた 「いや、よぉ~ 見ろよ空ッ 月がふたつってオカシイだろ――」 「勝負をはぐらかそうというのかい、卑怯者がッ もういい、勝手に始めさせてもらうッ」 「え…」 仗助の身体がフワリと浮かび上がった およそ6メートルくらいの高さだろうか? 下を見ると、ギーシュが薔薇を振っているのが目に入る 「こ、こいつは…」 「コモン・マジックのひとつ、レビテーションさ 魔法入門、基礎中の基礎だな そしてキミにはこれで充分ッ」 「うおおッ?」 浮かび上がったところから加速をつけて 一気に地面に叩きつけられる仗助 背中から落ち、肺の空気が全て追い出される 「うぐ、げほぁッ…」 建物の三階付近から落下しているのと、ほぼ同等ッ 並の人間が無事でおれるわけがない 「…さて、先手はぼくがいただいたわけだが 次はキミが来たまえ このままやられるのは無念だろう」 「だれ、が てめえに」 「ん…そういえばキミ、髪型はどうしたんだい? あの、なんというのか…『貧乏ったらしい鳥の巣』みたいな」 落下の衝撃のあまりうまく起きあがれない仗助に あろうことか、禁句を持ち出すギーシュ・ド・グラモンッ おそらくは、わかってやっているッ プッ…プッ… 「どこの田舎か知らないが…あんな頭をしている時点でお里が知れるってわけだねぇー もっとも! 見世物小屋にでも持っていけば喜ばれるかも…だがね」 プッチ~~ン 落下の痛みを怒りが凌駕ッ 仰向けの姿勢のまま飛び上がり、仗助は殴りかかるッ 「てっめぇ~~ ドララァァ―――ッ」 「怒ったな、あの時と同じようにキレて本気を出したな だけどムダだなぁ―――ッ!!」 見えない拳が到達するよりはるか遠い距離から ギーシュは再び薔薇…魔法の杖を振っていたッ 宙に浮き上がり 固定される仗助 届かない…何もできないッ 「そぉれ もう一回ッ」 ドゴォ 「ぐぇぇぇッ…!」 また落下 治ったばかりの身体がつぶれるように血を吹いた (あいつは『青銅』のギーシュ 見栄っ張りの…小心者 なるほど、いかにもな戦法ッスねぇ~~ だが、マジにどうする? 手も足も出ねぇよッ) また身体の浮かび上がる最中、ギーシュをするどく睨み付けた仗助だったが 今のところ、できることはそれだけだった
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/92.html
わたしの目の前に男が現れた、やっと成功したサモン・サーヴァントだというのに 唯の平民を召喚してしまったようだ。 「あんた誰?」 とりあえず名前を聞いてみることにする 「・・・俺はプロシュートだ」 この目の前にいる男はプロシュートというらしい 「けっこうイイ男じゃない、ルイズあんた使い魔じゃなく恋人を召喚したの?」 キュルケがそう言うと、みんながどっと笑う・・・腹立つ 「違うわよ!」 すぐそっち方面に話が跳ぶキュルケに否定する 「さて、では、儀式を続けなさい」 コルベール先生が続きを促してくる。そうだった、まだ儀式は途中だったんだ 今まで、わたしは使い魔にはモンスターが召喚されるとずっと思ってた だから契約のキスもファースト・キスじゃないとおもってたけど目の前には男の人がいる。 これってつまり、これがファーストキスになるってこと? 召喚した使い魔、プロシュートをよく見る、キュルケの言うとおり ちょっとだけど、渋くてイイ男じゃない。 わたしは覚悟を決めプロシュートに唇を重ねる 「いきなり何をするんだ?」 わたしがキスをしたっていうのに冷たい口調のままでプロシュートが質問してきた 「何って、契約したの、わたしがご主人様であんたが使い魔」 「ぐあ!ぐぁあああああ」 プロシュートの左手にルーンが刻まれていく 「ふざけるな!」 ビシィ プロシュートがいきなり平手打ちをしてきた 「なにをするの?主人に手を上げる使い魔なんて聞いたことないわ」 わたしが睨みつけるとプロシュートは自分の頬を押さえていた 何よ、痛いのはわたしのほうでしょ 「どういう事だ?」 プロシュートは、今度は反対側の頬をつねり上げてきた」 「いたい痛い、やめなさいよ、やめて、やめてください」 ようやく、つねるのを止めたと思うと1人でブツブツ言い始めた 「ご主人様のダメージ、イコール使い魔のダメージってコトか」 「あんた、なんなのよ!」 「ルイズと言ったな、理解したぜ、お前がご主人様で俺が使い魔だってなあ」 あっさりと言われた怒りが何処かにいってしまった 「わっ解ればいいのよ、教室に行くわよ付いて来なさい」 プロシュートはだまって後を付いて来る 納得はできねえがな 頭の中に声が響いてきた To Be Continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/720.html
ルイズは自分のベットの上で目を覚ました。 (私は…そう、使い魔召喚の儀式を…なんで、ここに…?」 ルイズは気を失う寸前に見た映像については記憶のかなたに吹き飛ばしているようだ。 「…目が覚めたようね」 ルイズが声が聞こえたほうへ顔を向けると、昼間自分が召喚した平民、いや、使い魔が足を組みながら椅子に座りながら本を読んでいた。 静かな部屋のなかでペラっとページをめくる音だけが響いた。 「…あんた、使い魔のくせにご主人様の前でそんな不遜な態度が許されると思っているの……!!」 ルイズの低い怒りを抑えた声に反応したのか、使い魔は顔を気だるげにやっと顔を上げた。 「トリッシュ・ウナ」 「……は?」 「もう一度言うわ。トリッシュ・ウナ私の名前よ」 トリッシュはそれだけいうともう一度読みかけのファッション誌に目を傾けた。 ルイズはかーっと頭に血が上るのを自覚した。 「ちょっとあんた!私は…」 「ああ、別にあなたは自己紹介してくれなくても結構よ。ルイズ・フランソワーズ・ル…なんだったかしら?確か最後はヴァリエールだったのは覚えているのだけれども…まぁ長いからルイズと呼ぶことにするわ」 ルイズは顔を真っ赤にさせながらトリッシュに向かって叫ぶ。 「こ、この使い魔のくせに!!なんて生意気なッ!!」 ルイズはベットから降りてトリッシュの読んでた雑誌を取り上げた。ほんとはびりびりに破り捨てたいところだが、わずかに残ったルイズの貴族としての矜持が高価なものである本を破り捨てることをためらわせた。 もしかしたら、ただ単純に貧乏性なのかもしれないが。 「なにかしらルイズ、その本が気になるのかしら?まだ読み終わってないから読み終わったら貸してあげるわよ。それとも…私に何か用かしら?」 「あんた!私の使い魔になったんだからね!そんな反抗的な態度が通用すると思っているの!!」 ルイズは今度こそ『ブチギレ』たッ!! ルイズの沸点はとうに超えていたが、沸騰しすぎて限界突破したようだ。ルイズは持っていた本をトリッシュに向けてぶん投げたッ! が、その本はトリッシュに当たる寸前でトリッシュのスタンドが掴み取った! 「こ、こいつは…!!あの時の……!!」 ルイズの記憶のかなたから契約の儀式でみた亜人がもう一度戻ってきた。 「やはり、あなたには見えているのね『スタンド』が」 「『スタンド』!?」 ルイズはゆっくり後ずさりするが、やがてベットにひざの裏が当たりその弾みで、こてん、とベットに座ることになった。 「そう『スタンド』よ。精神の力が形を成したビジョン。力を持ったビジョンよ。そして『スタンド』はスタンド使いにしか見ることはできない。 …安心しなさい。別にあなたをどうこうしようとは思っていないわ」 今の所はね、と胸の中でつぶやきながらトリッシュはスパイス・ガールからファッション誌を受け取った。ルイズはわなわなと唇を振るわせた。 「あなた、『メイジ』なの?そいつはあんたの『使い魔』なの」 「……みたいなものね」 「でも!でも!あんたは私と契約して!あんたは私の使い魔になったんだから!」 「……それはこれのことかしら?」 トリッシュは左手の甲をルイズに見えるように差し出した。 「『使い魔のルーン』…使い魔を使役するための契約を示した証……多少ミミズばれしているように赤くなっているけど……私には刻まれていないわ」 「あなたの『使い魔』!あなたのスタンドの左手に!刻まれているのをさっきみたわ!」 「ルイズ……、あなたが契約したのは、いえ、契約『しようとした』のは、私のスタンドではなく私自身ではなかったかしら?」 ルイズは悔しそうに下唇をかみしめながら、ぎゅっとトリッシュをにらみつけた。 (そう、そのとおりだ、私が、契約したのは…) 確かに理はトリッシュにある。私がキスしたのはトリッシュであって、そこにいる亜人にはキスをしていない。そんなことはルイズにもわかっていた。 頭ではトリッシュの言い分に負けそうになっているのを無理やり心が反論しようとした。 しかし、口をぱくぱく開くがまともな言葉はのどから出てこなかった。 ルイズの目に涙がじわり、じわりとたまっていく。しばしの沈黙の中、やがて耐え切れなくなったルイズは目から涙があふれだした! 「うっ…ひぐ…うく…ひっく…」 ルイズはできるだけ涙を出さないように声をもらさないようにしながらも、我慢できずにルイズの目からは涙があふれ出し口からはわずかに嗚咽が漏れ出した。 静かな部屋にルイズの嗚咽だけがこだまする。 「…なぜ…泣いているの?確かコルベール…さんの話では、例え今日使い魔召喚の儀式に失敗したとしても、別の日にもう一度やることもあるといっていたわ」 トリッシュはルイズを慰めるようなことを言った自分自身に驚きを感じていたが、ルイズが泣き出すとトリッシュの心に嫌なものがわきあがってきた。 「うっ…うるさいっ!あんたは!…私の使い魔じゃないんだったら!さっさとこの部屋から出て行ってよっ!」 ルイズは声を荒げてトリッシュを追い払うようなことを言った。ルイズにはトリッシュが慰めてくれていることが十分に理解できていたが、今は一人になりたいと思った。 「…いいから、私になぜ泣いているのか話してみなさい。話して楽になることも…あるわ」 トリッシュはルイズがただ単に使い魔召喚に失敗したから泣いていないのはわかった。 ルイズはその言葉を聴いてもただ泣き続け、トリッシュはじっとルイズが泣き止むのを待った。 10分だろうか?20分だろうか?長い間泣き続けたルイズはやがてぽつりぽつりと話し始めた。